ARS Techが測定の活用により品質を向上
イタリア半島の中部、アドリア海側に位置するアブルッツォ州を拠点とするARS Tech社は非常に革新的な企業として世界的に知られており、大手自動車関連企業に複合材料コンポーネントを供給するサプライヤーとして高い評価を受けています。同社はPolyWorks|Inspector™ソフトウェアを含む測定・制御機器、サービスを幅広く活用していることでも注目を浴びています。
課題
ARS Techでは市場へ製品展開を拡大する方法を模索していました。そのために、高性能カーボンファイバー製コンポーネントの製造プロセスを最適化すること、ハイエンド顧客を対象とした完璧なコンポーネントを毎回期限どおりに提供することを計画しました。これを実現するためには、計測技術と人材育成に投資する必要がありました。
解決策
ARS Techでジェネラルマネージャーを務めるPiero Consorti氏は次のように述べています。「ARS Techは自社で持つ多くの経験とスキルを基盤として2014年に生まれ変わりました。当社は世界でも主要な自動車用複合材料メーカーのひとつです。当社はより大きな市場への展開と、競争で差別化できるハイレベルのスキルをお客様に提供する必要性を重要視し、異なる状況でそれらを活用することにしました。
具体的にいうと、新しい目標は高性能カーボンファイバー製コンポーネントの製造プロセスを最適化することでした。これらの製品は、ハイエンドのお客様向けで、最先端の技術を通じて一般車、レーシングカーのどちらにも使用されています。この最先端の技術の中に「one-shot cure」(ワンショットキュア:1回で済む治療の意)である革新的なホットジョイントオートクレーブ組み立て工程というものがあります。この工程では従来の生産方法と比較して、処理時間の短縮と労力削減に加え、信頼性と再現性が大幅に向上します。」
ピエロ・コンソルティとマルコ・アッチャーリ
「私たちのビジネスモデルでは、「バーティカル」(垂直統合型)であること、つまり、プロセスを完全に掌握するためにあらゆる管理を社内で行うということが重要です。最先端の技術ソリューションを市場に提供するために自分たちで必要なスキルを身に付けるということは、さらなる付加価値を持つということになるのです。」
ARS Techの強みには、高品質、高度なカスタマーサービス、そして卓越した短納期があります。これらのARS Techの戦略は、「時間がなく、他社では要望に応えられない時こそ、当社にご連絡いただきたいのです。」 というお客様に向けたメッセージでも明確に示されています。
このビジネスモデルでは、ミスなしで常に初回から基準に準拠した製品を顧客に提供することが必要不可欠です。Consorti氏のお話しからも、完成品の絶対的な適合性を保証するためには、測定業務がいかに重要になってくるかということがわかります。「レーシングカーの冬季テストに携わっていた重要なお客様が、至急新しいエアロダイナミックコンポーネントの納入を必要としていましたが、最初の測定アームがまだ導入されたばかりだったため、計画されていたすべてのテストをすぐに実施することができませんでした。そこで私たちは外部の委託企業に頼らなければならず、この企業が当社の代わりに数時間かけて作業を行いましたが、レーシング業界では時間的な制約がとても厳しいため、結局、この部品の納品のために急遽ハンガリーへの出張を強いられました。」
Consorti氏は、完璧な部品を毎回納品するにあたって、測定の重要性について次のように説明しています。「オートクレーブ工程を使用して生産されるコンポーネントの製品の適合性は、工程全体を監視することによって保証できます。つまり、最終的な物体だけでなく、ワークフローも含めた一連の測定データを作成することになります。これは設備、工具類、模型、金型といったものだけではなく、処理方法のチェックを行い、日常的に対処が求められるあらゆる変数を考慮しなければならないことを意味します。これは間違いなく管理が難しい領域です。それでも先程お話したように、真の工業製品を市場に提供し、自動車業界のトップ企業の信頼できるパートナーとなることは極めて重要です。測定と制御に投資することは、ARS Techにとって成果を得られる保険に入るようなものだと言っても過言ではないでしょう。当社の計測業務への投資に対する積極性をよく物語っています。」
彼はさらに次のように語っています。「私たちのビジネスモデルでは、「バーティカル」(垂直統合型)であること、つまり、プロセスを完全に掌握するためにあらゆる管理を社内で行うということが重要です。最先端の技術ソリューションを市場に提供するために自分たちで必要なスキルを身に付けるということは、さらなる付加価値を持つということになるのです。」
もちろん、優れた測定にはそれに対応できるハードウェアとソフトウェアの両方が必要です。2014年にARS Techは自社初となるFARO社製測定アームとPolyWorks|Inspectorソフトウェアプラットフォームのライセンスを購入しました。この組み合わせについて、同社のセールスエンジニアはこの領域におけるツールの「フェラーリ」だと表現しています。PolyWorks|Inspectorはユニバーサル3D寸法解析・品質管理ソフトウェアで、ツールや部品の寸法チェック、製造や組み立てに関わる問題の診断・予防、リアルタイム測定を通じたアセンブリ構築のガイド、ポータブル測定機とCNC 3次元測定機を使用した組み立て製品の品質管理に使用されます。この購入で優れた成果が得られたことから、ARS TechではすぐにFARO社製測定アーム(ソフトウェアライセンスなし)をもう1台購入することを決断し、続いて専用ソフトウェアライセンス付きのHEXAGON社製 CNC 3次元測定機(座標測定機)も購入しました。PolyWorks Europa Italiaの担当者のサポートもあり、ARS Techはすぐにユニバーサルソフトウェアソリューションの可能性を理解し、複数の3次元測定機と連動するインターフェースとしてPolyWorks|Inspectorを活用しています。
メリット
Consorti氏は「企業は通常、何かをするためにどのくらいのコストがかかるのかに多くの注意を払いますが、何かをしないためにかかるコストについてはほとんど注目しません。当社は、ビジネスモデルと測定・制御に対する投資のおかげで、2020年には年間売上高が1680万ユーロにまで伸び、従業員数も295名にまで増えました。」 と話しています。
この計測システムへの移行は、競争力向上の観点からも決定的でした。ARS Techで人事マネージャーを務めるMarco Acciarri氏は「この移行によって、3ヶ所のワークステーションを停滞なく管理できるようになりました。精度レベルを下げずにデータの取得・処理をスピーディに行えるという点で非常に大きく前進しました。正直なところ、PolyWorks Europa Italiaがコンサルタントレベルで私たちをサポートしてくれなければ、わずか2年間でこのようなポジティブな成果を得られなかったと思います。」と述べています。
ARS Techで始まったPolyWorks Europa Italiaとの有益なパートナーシップは今日でも発展を続け、同社の革新的・優位的な進展に貢献しています。Acciarri氏は次のように語りました。「このパートナーシップは、単なる経済的判断で続いているものではなく、私たちが求める特別なニーズと、可能な予算の範囲の中で最高のソリューションを提供するという明確な企業理念によって存続しているものです。当社はこのサプライヤーとの強固な関係を日常の貴重な対話の機会ととらえており、この2年で様々なサポートをリクエストするための電話連絡は110回を超え、さらには技術的なプレゼンテーションやトレーニングセミナーにも対面やオンラインで参加しました。これらのすべてが日々の業務に役立っています。」
Consorti氏は、現在の自動車業界における慌ただしい進化の中で、ARS Techは良いポジションにいると感じています。「自動車業界では大手企業の影響を強く受けます。特に、型や材料、安全基準、エネルギー源などを急進的に新しく変えていくための競争がある一方で、長い年月を経てはじめて製造工程が組み込まれた生産ラインを始動できるという現在の状況ではなおさらです。このような状況において、私たちの最大の武器は信頼性です。これは今日の当社の業績と安定性を支える基盤のひとつであり、サプライヤーと日々信頼関係を深めることで築かれていくものです。今のところ、この関係性が崩れたことは1度もありません。サプライチェーンを体操競技の跳馬のようなものと考えてみてください。顧客がプロジェクトを始動させ、サプライヤーがそれを支えています。そのうち誰か1人でも倒れたら大変なことになります。今日、自動車業界にとどまらず、あらゆることが急速に進化する中で、柔軟性と顧客ニーズへの理解を体現できない企業は弱い立場に立たされています。私たちが携わる複合材料分野でいうと、ますますカスタマイズ性が高まる製品に取り組むという傾向が見られます。そのために最大限のパフォーマンスが求められ、サプライヤーは最大限の付加価値を市場に提供することが要求されています。」
ARS Techでは今後数年のうちに、需要の増大に伴い市場競争が激化し、サプライヤーに一定の淘汰が生じる可能性があると予測しています。それでも、ARS Techは今後も自社の真価が非常に要求の厳しい顧客から認められ評価されること、また自社の基盤となるスキルが重要な資産となるということを確信しています。Consorti氏は自信を持って次のように語っています。「トヨタの最先端の活動においてパートナーに選ばれ、日本のトヨタの研究開発部門と連携できることなど、私たちの努力の成果に非常に満足しています。当社は、プロジェクトの構想段階から積極的に関与していくサプライヤーまたパートナーとして、お客様から信頼され、認められています。これはすべて、当社が明言している時間厳守、正確性、協調性、特に中長期的には測定のおかげだと思っています。」